ダリの世界を思わせる井上氏の自邸。
そこで語られた音楽家、いや芸術家の人生を、貴方もちょっと覗いてみませんか?
多くの優秀な指揮者や音楽家を輩出した日本の音楽教育の先駆者、斎藤秀雄の元で7年間「指揮者が振った通りに演奏させる」指揮法を学んだ井上氏。
1971年にミラノの指揮者コンクールにて優勝して以来、日本国内にとどまらず世界的な活躍を始める。国内外のあらゆるオーケストラの首席指揮者、常任指揮者、音楽監督等を務め、彼を知らぬ者を「音楽家」とは呼べないだろう。
しかし皆さんが目にする彼の姿に、皆さんが耳にする音楽に、「俺が振ったように弾け!」なんてものは、どう頑張ったって感じることはできないだろう。師の教えに忠実に指揮をし続けてきた彼は、ある時手放したのである。彼がかつて叩き込まれた、「指揮者が振った通りに演奏させる」指揮を。それによって生まれる音楽を。
演奏者に自由を与えない、指揮者が全てを操る指揮は消えていった。
ハメを外した?いい加減?このような言葉を受けたこともあった。彼は言う。「子どもいる人はみんなそう。どんなにちゃんと言っても、思った通りになんてならないじゃない?」。この言葉を聞くと、今現在彼が弟子を取っていないことが本当に悔やまれる。
演奏するのは自分じゃない。演奏している人が楽しそうにしている方がいいな。両立するためにはどうしたら良い?人形遣いのように見せかけて、奏者との間に操らぬ糸を紡ぐ方法を探る人生を歩み始めたのだ。
(郡山交響楽団 第四回公演 プログラムより一部抜粋)
インタビュー=長谷川弘樹 文=永富さおり
井上 道義(指揮)
Michiyoshi Inoue, Conductor
1946年東京生まれ。桐朋学園大学卒業。ニュージーランド国立交響楽団首席客演指揮者、新日本フィル音楽監督、京都市響音楽監督、大阪フィル首席指揮者、オーケストラ・アンサンブル金沢音楽監督を歴任。2014年4月、病に倒れるが同年10月に復帰を遂げる。2015&2020年全国共同制作オペラ「フィガロの結婚」(野田秀樹演出)、2017年大阪国際フェスティバル「バーンスタイン:ミサ」(演出兼任)、2019年全国共同制作オペラ「ドン・ジョヴァンニ」(森山開次演出)、いずれも総監督として率い既成概念にとらわれない唯一無二の舞台を作り上げている。2018年、日越外交関係樹立45周年記念NHK交響楽団ベトナムツアーを指揮し各方面より絶賛されている。
2016年「渡邊暁雄基金特別賞」、「東燃ゼネラル音楽賞」、2018年「大阪文化賞」「大阪文化祭賞」「音楽クリティック・クラブ賞」、2019年「有馬賞」を受賞。オーケストラ・アンサンブル金沢桂冠指揮者。
オフィシャルサイト http://www.michiyoshi-inoue.com/